「Etude」
 2020 | VIRTUAL ART BOOK FAIR 2020、AI TERAMOTO ONLINE STORE
《Lesson1 鼻の下の汗をぬぐう》
《Lesson2》
《Lesson3》
ドローイング、写真、テキスト、音源によって構成された冊子形式の作品。
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部屋に一人でいるとき、どう過ごしていますか。
わたしはというと、いまは作業机に向かって座ってノートパソコンを開いてこの文章を打っています。椅子の背もたれに体重をかけたらギイと鳴りました。顔を上げると目の前に置いたデスクトップの黒い画面が大きいと思いました。
デスクトップの後ろには引き戸、開けるとキッチンがあるけれど引き戸は壁として使っているからいつも閉めていて、ここからはコンロの上の換気扇の音だけが聞こえます。それよりも背中側の窓の上の換気口が自動運転で動いたり止まったりする動作音が気になって振り返ったら、換気口に貼ったフィルターのシールの粘着が弱まったのか、いつの間にか剥がれて落ちてカーテンにくっついてた。書かなければわたしだけがわたしの部屋の換気口を「うるさいなあ」と思ったけれど、書いたからこれを読んだ人が「うるさいのか」と思い浮かべた換気口の形は丸か四角か、書いてないからわからない。
今年は家で一人過ごす時間が増えました。とくに外出を控えるよう言われていた時期は、はじめは会えない人のことを「どうしているかな」と考えたりしたけれど、しばらく経つとその「どうしているかな」で想像する姿が固まってきて、生き生きと思い出せなくなっていく。目の前にいないあの人やあの人が、自分と同じようにいま生きていて、それぞれの日々を過ごしているということを忘れそうになる。それは同時に自分はいま「ひとりだ」という実感を強め、「独りだ」と思ってしまう。
人が「ひとりでいる」という状態を、限りなくそのままに、かつ特定の人物の個人的なエピソードとならないように伝達する。そして受け取った人間が、どこかで自分と同じように「ひとりでいる」人間が確かにいることを実感することによって、「ひとりでいる」ときに抱える孤独感を「ひとりでいる」ままに和らげるようなことができないだろうか。「Etude」はその試みです。
Etudeという言葉は音楽では練習曲、美術では習作、演劇では即興劇という意味で用いられます。
あなたの部屋の書棚に差し込まれた「Etude」が、あなたの「ひとりでいる」孤独に向き合うための、ひとつのレッスンブックのような存在になりますように。

撮影協力:坂倉圭一
タイトル考案:関川航平